はじめまして。


BL小説を書いております、やぴと申します。
こちらは男同士の恋愛小説となっております。
ストーリーの関係上、性描写があります。
ご理解いただける方のみ、自己責任において閲覧ください。
実際は小説と呼べるほどのものでもなく、趣味で書いていますので、稚拙な文章ではありますが楽しく読んで頂けると幸いです。

コメントなど気軽に頂けると嬉しいです。
誹謗中傷などの心無いコメントは当方で削除させていただきます。ご了承下さい。

ヒナ田舎へ行く ブログトップ
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ヒナ田舎へ行く 180 [ヒナ田舎へ行く]

ヒナが『じいさま』に並々ならぬ興味を抱いていることに、ダンは危機感を覚えた。

そもそもこの状況――家族団欒風景――が問題ではある。

ヒナはもう二度と家族には会えない。
日本に親戚がいるようだけど、強欲な彼らはヒナが生きていない方が都合がいいと思っているのだ。

伯爵も同じように思っているのだろうか?だから会いたくないなんて。目の前に孫がいてもそう言えるのだろうか。

そういえば、日本へ行った代理人はいつ戻ってくるのだろう?ヒナが相続を放棄するのと引き替えに、身元を証明するつもりのようだが、そもそもヒナはまだ成人していないのだから、その交渉自体意味を成さない気がする。

もしかして旦那様はそこまで考えて代理人を日本に派遣したのだろうか?だとしたら、やはりさすがは旦那様だとしか言いようがない。

「じいさまはブルゥに似てる?それともヒュー?」しばらくうずうずしていたヒナが会話が途切れたのを機に切り出した。あれこれ聞き出してどうするつもりだか。

「じいさまはじいさまだな。まあ、強いて言うならカイルかなぁ~」とスペンサー。

「じいさまはカイルと同じ名前なんでしょ?」ヒナがカイルを見る。

「あ、じいちゃんじゃない。お母さんのおじいちゃんの方」カイルは顔の前で手をびゅんびゅん振った。

「お母さんの?」ヒナの眉尻が下がった。

ああ、いけない!ヒナのめそめそスイッチが入りそうだ。

この話題、今すぐにでも終わらせなきゃ。

「スペンサー、頼んでいたものはありましたか?」ダンはヒナとカイルの会話を跨ぐようにして、スペンサーに話し掛けた。

「いろいろ頼まれたが、どれのことだ?」スペンサーがもったいつけたように言う。

「ほら、あの――」もうっ!なんだってスペンサーはこんな時に意地悪を。あれこれ頼み過ぎたから?

「うん。もう死んじゃったけど。ヒナのおじいちゃんはデンザブロだったよね?」

恐ろしいことに、子供たちの会話は続いていた。カイルの問いにヒナが何と答えるのか、ダンは身の竦む思いで見守った。

「うん。もう死んじゃった」ヒナは当然しゅんとなった。

「あ、そっか。じゃあ、お母さんのおじいちゃんは?」

カイルの悪意のない質問に、ダンはヒヤヒヤせずにはいられなかった。

「お母さんの?えっと、知らない」ヒナは目を伏せ、やみくもに皿の上のパンを取った。

「会ったことないの?ああそうだ。おじいちゃんに会いに日本から来たんだ」カイルは名案だとばかりに声高に言った。

「ち、違います!!」ダンはとうとう叫んだ。

視線が一気に集中し、頬が赤らむのを感じたが、四の五の言ってはいられない。

ヒナを泣かせたくないし、なにより、このままだと素性がばれてしまう。

ひとり静かにワインを飲んでいたブルーノが、グラスをテーブルに置いた。コツンと、音がことさら大きく響いた。

「何が違うんだ?」当然の疑問を口にした。

つづく


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ヒナ田舎へ行く 181 [ヒナ田舎へ行く]

ブルーノはダンの様子がおかしいことに気づきながらも、しばらく静観していた。だが、ついに声をあげた。

「何が違うんだ?」その問いは、純粋にヒナについて知りたかったのもあるが、ダンが何に頭を悩ませているのか、どんな秘密を抱えているのかを、知りたかったからでもある。

「だから、その、ヒナは父親の仕事の都合でここにいるわけで……」

ダンはこれ以上追求しないで、というような視線を送ってきた。だが俺に何が出来る?

こいつらは気の済むまで会話をやめないぞと、ブルーノは視線を送り返した。

「お父さんって何の仕事しているの?」カイルが、ダンかヒナかに向かって訊いた。

ほら見ろ。

「お父さんは……いろいろな人と話したり、書き物したりするひと」ヒナが心許なげに答える。

「あっ!わかった!通訳だ。そうでしょ?違う?」

「つうやく……?あ、うん。そうだと思う。ヒナはお仕事のことよく知らないの」ヒナは唇をすぼめ、可愛らしく肩をすくめた。けれども、その目は不安げにダンの方に向いていた。

ブルーノとは違い、ダンはすぐさまヒナの助けに応じた。「実は僕もあまり知らないんですよ。旦那様なら詳しく知っていると思うんですけどね。まあ、でもここには旦那様はいないわけですし――」

「ダンはただの使用人だ。詳しいこと知るはずがないだろう?ほら、カイル。ぼやぼやしてないでパイをよこせ」スペンサーの語調は強く、会話を断ち切るには充分だった。

「え?パイまだ食べてなかったの?」カイルは口を尖らせ、仕方ないなぁとばかりに、目の前の皿に手を伸ばした。

ダンは下級使用人扱いされたことに不満を抱いていたとしても、おくびにも出していない。おそらくスペンサーの真意をくみ取っているのだろう。結局、ブルーノはスペンサーにいいところを持って行かれてしまったというわけだ。

「それとブルーノ。一人で飲んでないで俺にもよこせ」

攻撃はこちらにも向いた。ブルーノはグラスとボトルを差し出した。

「ヒナも飲みたい」ヒナが猫なで声を出す。

「ヒナはだめだ。すぐに酔うだろう」スペンサーがぴしゃり。

「ぶぅ」ヒナは頬を膨らませた。

「水で薄めれば?」カイルが提案する。

「じゃあ、水に少しだけワインを入れてやれ」とスペンサー。

「やったぁ!」素直に喜ぶヒナ。あしらわれたことには気付いていない。幸せ者だ。

「僕もいいですか?」ダンがこわごわと手をあげた。

珍しいこともあるものだと、ブルーノはスペンサーと顔を見合わせた。

おそらく同じことを考えたのだろう。

ダンは酔っ払ったらどうなるのだろうか、と。

つづく


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ヒナ田舎へ行く 182 [ヒナ田舎へ行く]

結局、ダンを酔わせることは出来なかった。

自制したのか遠慮したのか、せっかく新しく開けたボトルも半分以上が残ったままだ。

残念がるスペンサーとブルーノだったが、二人ともまだ諦めてはいなかった。

スペンサーは粘りに粘り、ヒナをベッドに送り込んだら下に降りてくるとダンに約束をさせた。

兄弟は争うようにして自分の仕事をやっつけにかかった。スペンサーはヒューバートへの報告。ブルーノは食事の後片付けと明日の仕込みと、スペンサーよりも仕事量は多い。かなり不利だ。

だが、先に居間に到着したのはブルーノだった。

ブルーノは勝ち誇った様子で、テーブルにグラスとワインボトル、それにちょっとしたつまみを準備し、早々に席に着いた。

ダンがスペンサーより先に到着すれば、迷わず隣に座らせるつもりだった。ブルーノはじりじりとダンを待った。

ふいに馬鹿馬鹿しさに笑いがこみ上げてきた。酔わせてどうこう出来るわけでもないのに、何を必死になっているのだろう。だが、スペンサーに奪われるのだけは我慢できない。奪われるくらいなら、ここから追い出してやる。

ブルーノはグラスに濃いルビー色のワインを注いだ。一口飲んで、まだ子供のダンにはこの味が気に食わなかったのかもしれないと思い始めた。別のを持ってこようか?その間にスペンサーがやって来て、ダンも来たら?

結局ブルーノは席を立たなかった。いざとなれば、シェリーでも飲ませておけばいい。あっちの方がアルコールはやや高めだが飲みやすい。

二口目を口に運んだ時、ダンが部屋に入って来た。ブルーノは心が浮き立つのと同時に、見慣れないダンの姿に歓喜の声を胸の内で上げた。

ダンは風呂上がりだった。

ゆったりとしたシャツだけで、堅苦しいクラヴァットも上着も抜きだった。まだ湿り気のある茶色い髪は毛先がくるんとカールしている。

「あとはヒナが自分でやると言うので、僕もササッと済ませてきました」ダンは申し訳なさそうに言ったが、むしろ、良い。

ダンが余所に座ってしまわないうちに、ダンのグラスにワインを注いだ。

「気に入らないなら別のを用意するが?」訊ねながら、自分のグラスのすぐ横に置いた。

ダンはまるで警戒もせず、ブルーノの横に腰をおろした。

リラックスした身体からは石鹸の香りが漂ってきた。残念なことに、ヒナと同じ香りだったが。

「いいえ。これで充分です」ダンは控えめに言い、グラスを手にした。「スペンサーはまだヒューと?」

「親父は話が長いからな、もう少しかかるんじゃないか?ほら、この干したイチジクはなかなかだぞ」

ブルーノは邪魔者を軽く脇へ追いやり――どうせならこのまま来なければいいとさえ思いながら――、ダンにウォーターズ持参のチーズとドライフルーツをすすめた。

つづく


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ヒナ田舎へ行く 183 [ヒナ田舎へ行く]

ああ、これ。旦那様のお土産だ。

ダンは干したイチジクを手に取り、縦に二つに裂いた。片方は皿に戻し、もう片方を前歯で上品にかじった。

半生状態とでもいうのだろうか、しっとりと柔らかく干されたイチジクはヒナの好物だ。もちろんダンも。ぷちぷちとした種の食感がたまらなく好きなのだ。

「なんだかすごく贅沢な気分です」ダンは嘆息しながら言った。

時折ヒナのおこぼれに与れるだけで、そうそういつも口に出来るものではない。ワインにしたってそう。あんまり飲み過ぎると、翌日頭が痛くなってしまうけど、飲めるときは遠慮なしに飲むことにしている。これもウェインの教えのひとつだ。旦那様がけちけちしていないのって本当に幸せなことだと、ダンはつくづく思った。

「まったくだ。ウォーターズのおかげかヒナのおかげか、ここ数日でずいぶん贅沢になった」

『ヒナのおかげなのは間違いない』ダンはそっと付け加えた。

「ん?何か言ったか?」

「いいえ。美味しいですね」ダンは澄まし顔で否定し、にっこりとした。

「こういうのはあまり良くないんだが、たまのご褒美と思えば、そう悪くもないな」ブルーノはダンがちぎったイチジクを取って、歯を立てた。

白くて並びの良い前歯だ。あれで噛み付かれたら、きっと綺麗な歯形が付くだろう。

なんて、場違いなことを考えながら、ダンは機嫌よく応じた。「そうですよ。たまにはご褒美があってもいいと思いますよ」

ブルーノはうなずき、もっと飲むようにとダンのグラスに向かって顎をしゃくった。

ダンは飲んでいますと応じるように、グラスに口をつけた。あまり慌てて飲むと、明日の朝は苦手なコーヒーが必要になってしまう。でもブルーノの淹れるコーヒーなら、たいして苦ではないかもしれない。

とにかく今日は疲れた。旦那様が午前中からやって来て、ヒューバートもやって来て(彼の方が先だったが)、スペンサーとヒナの怪しい会話を聞き、カイルがウェインにキスをしている場面に出くわし、そしていまはこうしてブルーノと就寝前の気楽なひとときを過ごしている。

ああ、そうだ。

あのことを訊こうと思っていたんだった。

ヒナが『ブルゥは本気』と言っていたから、本当かどうか確かめようと……。

でもどうしてそんなにブルーノの気持ちが知りたかったのだろうか?

ダンはワインを煽り、もう少しだけブルーノのはっきりした気持ちを知りたい理由を考えてみようと思った。

つづく


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ヒナ田舎へ行く 184 [ヒナ田舎へ行く]

ブルーノはちらちらと戸口を警戒しながら、思い切って尻ひとつ分、ダンに近づいた。

無警戒のダンは、ちろちろとワインを舐めるようにして飲みながら、薄く切ったパンの上にチーズを乗せたり、蜂蜜をかけたりしたものを、次々とこしらえている。まるでいつもそうしているように。

「向こうでは、仕事のあとにいつもこうやって仲間と飲んでいたのか?」ブルーノは気になって訊いた。

「向こう?ああ、いえ、いつもではありませんけど、時々は」ダンはグラスを置き、またイチジクをかじった。どうやら気に入ったようだ。

「へぇ。使用人同士、仲は良いのか?」声がうわずった。ダンが俺の知らない誰かと仲良くしていると思うと、嫉妬心がメラメラと湧きあがった。当然、数は向こうが上だ。とすると、特定の誰かと仲良くすることは難しいかもしれない。

「そうですね……仲は良い方だと思います。たぶん、ヒナがいるからかなぁ」

ダンの答えにブルーノはホッとした。そもそもダンは、ヒナの世話で忙しい事を思い出したのだ。

「ヒナは歓迎されているんだな」一時預かっているだけとはいえ、もう三年だろう?ほとんど家族のようなものじゃないか。ヒナの父親の仕事はそんなに忙しいのか?母親は何をしていると言っていただろうか?後でスペンサーに確認しておこう。

ブルーノは頭の片隅にメモを取って、ダンのグラスにワインを注ぎ足した。

「あ、すみません」ダンはグラスの足に手をやった。「歓迎?ええ、そうですね。歓迎どころかヒナを中心にすべてが回っているようなもんですよ。みんな寂しがっているだろうなぁ~。アダムス先生への手紙はまだ届いてないですよね?」注ぎ終わると、こくこくといい飲みっぷりを見せ、こちらのグラスを満たしてくれた。

「順調にいっても一週間はかかるだろう。昨日、ノッティに預けたばかりだしな」ブルーノはペースを上げた。スペンサーが来るまでに、二人でできあがってしまうのも悪くない。

きっと悔しがるだろう。

「どうしたんですか?にやにやしたりして」そう言うダンもにやにや――というより、にこにこしている。

「そっちこそ」ブルーノは肘でダンの腕の辺りを小突いた。

ダンはよろりと向こうに傾いだ。

思わず手を伸ばして肩をしっかりと掴むと、何の迷いもなく抱き寄せていた。ダンはすぐにこちらに傾ぎ、そのまま胸にもたれ掛かった。

「僕、酔っているみたいです」ダンは笑いながら言った。

つづく


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ヒナ田舎へ行く 185 [ヒナ田舎へ行く]

ヒューバートがスペンサーを解放したのは、ダンとブルーノが飲み始めてゆうに一時間が過ぎた頃だった。

スペンサーは居間に急いだ。

こういうときに限って、親父の話がいつもの倍は長かった。薄暗い廊下を大股で進み、居間から光が漏れていることにホッと胸を撫で下ろした。かろうじて密室ではないということだ。

中に入ると、居間には椅子がそれしかないかのように、二人が窮屈そうに並んで座っていた。

いや違う。スペンサーは訂正した。

あのくそったれ!ダンを抱いてやがる!

部屋を最短距離で突っ切る。アルコール特有の甘ったるい香りが怒りを煽り、吼え声をあげる寸前まで来ていた。

だが、やがてこちらに気付いたダンが振り返ると、怒りはみるみるうちにしぼんでいった。ダンはとてもリラックスしていて(ブルーノの横で、というのは気に入らないが)、笑顔で、額の傷を隠すようにおろされた前髪は、意外にも猫っ毛だった。

ブルーノにほんのわずか先を越されたからといって、せっかくのくつろぎタイムをぶち壊すのも野暮というものだ。

「スペンサー、遅いですよ」ダンは上機嫌で言い、ブルーノの腕を難なく振り解くとバネのように立ち上がった。が、身体は揺らめき、また座った。「僕、酔ってるみたいなんですよ」そう言ってけらけらと笑う。

完全に酔っている。

「いったいどれだけ飲ませたんだ?」スペンサーは弟に向かって渋面を作った。

「どれだけ、というほど飲んでないぞ」ブルーノはスペンサーのグラスを準備すると、賢明にもダンと適切な距離を開けて座りなおした。

「僕、今日は本当に疲れたんです」ダンがにこにこしながら言う。

とても疲れているようには見えないが、ダンがそう言うならそうなのだろう。

スペンサーは二人の向かいに腰をおろし、ブルーノがグラスを満たすのを待った。

「で、ダンは何に疲れたんだ?」疲れる理由は多々あっただろうが、ダンの口から聞きたかった。

「何にって……そりゃあ――」ダンはもったいつけるように、言葉を切った。

「そりゃあ?」スペンサーは先を促した。

「ヒナですよ」ダンはきっぱりと言った。

「だろうな」スペンサーは同情を込めて返した。ブルーノも横で頷いている。

「それと――」

それと?まだ続くのか。まあ、確かに、ヒナだけならいつもの事だろう。

「スペンサーにブルーノも。僕をぬいぐるみみたいに引きずらないでくだひゃい」ダンはそう言って、こてんと眠りに落ちた。

「ダンを引きずったのはお前だろう?俺は関係ないからな」スペンサーは憮然と言い、ダンの寝顔をつまみにブルーノと新たなボトルを一本空けた。

つづく


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ヒナ田舎へ行く 186 [ヒナ田舎へ行く]

玄関広間の大時計が真夜中を知らせた。

眠るダンを側に置きながら、ブルーノとスペンサーは激変した日常について語っていた。が、さすがに二人ともが腰を上げた。もちろん二人ともが、ダンを抱きかかえてベッドまで運ぶつもりで。

「お前はさっきどさくさに紛れてダンを抱いていただろうが」スペンサーは、いち早くダンに手を伸ばしたブルーノを牽制した。

「ちょっと肩に手を置いていただけだ」ブルーノは、肘掛けの部分に頭を預け心地良さそうに眠るダンに目をやった。スペンサーが現れるまでは、確かにダンは俺の腕の中にいた。笑いながら酔っ払い宣言をし、『ブルーノも酔っているでしょう?』と俺も巻き込もうとした。言っておくが俺は少々のことでは酔ったりはしない。

「ふうん。で、何で勝負する?」スペンサーは座り直し、悠然と足を組んだ。居間のどこかにあるトランプを探すかのように視線を走らせる。

「いいや、そんなものはしない」ブルーノはきっぱりと断った。何をするにしても、ダンを譲る気は一切ない。ましてや、いかさまをする男とトランプで勝敗をつけるなど、もってのほかだ。

「ま、別にいいさ。じゃあダンは俺が貰っていく」スペンサーがいけしゃあしゃあと言う。

「おい、冗談じゃないぞ!今回も横取りする気か?」ブルーノはテーブルに手を突き、スペンサーを威嚇するように身を乗り出した。

「おいおい、よだれ垂らしながら眠るガキに何かするとでも思っているのか?」スペンサーがダンを見る。

よだれを垂らしそうなのはどっちだ!

「前科があるだろうが」

「お前、しつこいな」スペンサーはうんざりと溜息を吐いた。「言っておくが、俺たちはあいつに遊ばれていたんだ。奪い合う価値もなかった」

「よくもそんなッ――」奪っておきながら!

「いい加減にしろッ!まだあのガキに未練があるわけじゃないだろうな?ダンを狙うのはあいつの代わりにするためか?」

「馬鹿言うな!」ブルーノは怒鳴った。

「うぅん」やはり声が大きすぎたのか、ダンが目覚めた。身を捩り、目をしばたたかせ、ひとまず目の前のスペンサーに焦点を合わせた。「僕、眠たくなったので、そろそろ失礼しますね」

眠っていた自覚なしか?

スペンサーは苦笑いを浮かべ、「おやすみ」と一言だけ発した。

ブルーノはただ黙って、ダンがよろよろと立ち上がり、部屋を出て行くのを見送った。

隣は死角だったようだ。

つづく


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ヒナ田舎へ行く 187 [ヒナ田舎へ行く]

五日目。

本格的な雨降りの日だった。

土砂降りだ。

パン屋のノッティは幌付きの馬車でやって来た。パンと昨日スペンサーがキャリーの店で購入した品を乗せて。

日課であるはちみつたっぷりの紅茶を飲むと、お喋りもそこそこに隣家へ向かった。

雨で気分の上がらないヒナは、ぎりぎりでノッティにジャスティンへの手紙を渡すことが出来たが、またベッドに戻り、ぐずぐずと支度を遅らせた。

対して、すっきり目覚めたダンはぐずるヒナをものともせず、転がしたり立て掛けたりしながら、なんとか椅子に座らせるまでに至った。

「だって、今日はジュス来ないもん」ヒナは絨毯に着かない足をばたつかせた。

「今日は雨です。諦めて下さい」

「やだやだ」ヒナはぼさぼさ頭を振った。

「やだ、ではありません。宿題もたまっているでしょう?本は読んでいますか?そう言えば、雨の日はお屋敷の中を案内するとスペンサーが言っていましたよ。やることは沢山あるんですからね」

「ダンのカチカチ頭!」

「カッ――カチカチ?まったく、これがジェームズだったらどうなってたか知りませんからね」ダンはヒナの頭に手を入れ、わしわしとかき混ぜ始めた。もちろん手には魔法のオイルを数滴垂らして。

「ジャムはいじわるなんだもん」ヒナはぷうとむくれた。

「ヒナが子供なんですよ。いったいいくつになったんでしたっけ?」

「じゅうごさい」ヒナは両手を広げ突き出した。そして右手だけ、勢いよく真上に上げた。変わった十五の表し方だ。

ダンは鏡の中のヒナに向かって、無言で首を振った。十五歳にしてはあまりに子供だという意味だ。

ヒナがムッとしたのがわかった。が、甘やかしてばかりもいられない。

「じゃあさ、ダンの十五歳はどんなだったの?」ヒナはむきになって言い返してきた。

「僕の十五歳?」一人前の男を気取って家出をしましたなんて、ヒナには言えない。「働いていましたよ。役者になるために一生懸命ね」

「あ、そうか。ダンは役者さんだったんだ」

だから役者志望だってば。ヒナがいつもそう言うから、自分でも役者だったと勘違いしそうになる。あーあ、ここでは”出来る使用人”を演じるはずだったのになぁ……。

「ヒナ、リボンは何色にしますか?」ダンはヒナのもじゃもじゃ頭を見事にまとめあげた。ふわふわの馬のしっぽみたいだ。

「リボンしない」ヒナはぷいっとそっぽを向いた。

でた!反抗期め。

「スープに髪の毛が浸かっても知りませんよ」

「スープ飲まない」

「バターが付いてべとべとになりますよ」

「バターいらない」

「では、今朝はシモンのパンは食べないのですか?」

「食べる」

食べるのか。まぁ、シモンのパンはバターもはちみつもいらないからな。

「では、前髪だけ留めて行きましょう」

旦那さまからの贈り物の髪留めを目の前にちらつかせると、ヒナは頬を上気させ渋々を装いつつも従順に頭を差し出した。

これでようやく支度が整う。

つづく


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ヒナ田舎へ行く 188 [ヒナ田舎へ行く]

定刻を三十分も過ぎた。

ヒナとダンが食堂へ入ると、そこにはヒューバートだけがいた。トーストとコーヒーという軽めの朝食の最中だ。

ヒューバートはヒナの姿を見とめると「おはようございます」と言うが早いか、立ち上がって頭を垂れた。

「おはよう、ヒュー。みんなはどこ?」ヒナはきょろきょろと部屋を見回した。

「朝のうちに済ませておくべき仕事に取りかかっております」

「朝から何をしてるの?」ヒナはいつもの席に座り、皿の上のナプキンを取った。

ヒューバートはにこりとし着席した。使用人がなすべき仕事を、気に掛ける必要などないというわけだ。

「おはようございます、ヒューバートさん」ダンはヒナの隣に座った。

「そうかしこまらなくてもいい」ヒューバートは手を伸ばして、パン籠に掛かるリネンを取った。

「ダンはね、ヒューがいないとこではヒューって呼んでるよ」

ダンはヒナの口をつまんでねじってやりたかった。けど、そうはせず、ヒナのためにパンを取ってやった。スープもバターもいらないと言うので、ゆで卵だけ添えた。

「ダン、ありがと」ヒナは早速シモンのパンにかぶりついた。ゆで卵には見向きもしなかった。

ダンはソーサーの上に裏返しに置かれているカップを表に返し、冷め切った紅茶を二人分注いだ。ヒューバートが飲んでいるコーヒーにもそそられたが、飲みきる自信はなかったので手は出さなかった。多少飲みやすくはあっても、コーヒーには違いない。

相変わらず、シモンのパンは美味しかった。おやつのように甘いけど、これを食べると頭の働きが良くなるような気がする。これでヒナの勉強がはかどればいいのだけれど。

「カナデ様、今日のご予定は?」ヒューバートが訊ねた。

「勉強と読書。ダンの命令」ヒナは押し付けられた感いっぱいに答えた。

「命令!ヒナ、人聞きの悪いこと言うのはやめて下さい」ダンは顔を真っ赤にした。

「では、ダンの言いつけに従って勉強をがんばって下さい。わたくしはこれで失礼します」ヒューバートは使い終わった食器を手に食堂を出て行った。

と同時に、二人は長い息を吐き出した。

まだその存在に慣れていないのだ。ヒューバートがやって来てまだ一日。こちらの正体をすっかり見破っている(最初からいろいろ知っているようだが)とはいえ、迂闊な言動は避けなければならない。

「みんなどこかな?」ヒナは心許なげにダンに訊いた。

「いつもどおり食事を済ませて、片付けやらなんやらしているのでしょう。ぐずぐずしていたからこうなったんですよ」ダンは説教じみた口調で言い、ヒナが手を付けようとしないゆで卵を取って、殻を剥きはじめた。「食べ終わったら、一緒にキッチンに下りてみましょう」

「キッチン?じゃあダンはブルゥに決めたの?」

「ブッ!――」ダンは剥きたてつるつるの卵をうっかり転がしてしまった。「な、なんですか?」あたふたと回収しながら言う。

「だって、スペンサーは書斎にいるもん」

「そりゃ、スペンサーは書斎にいますけど、僕に手伝えることはありませんから。ほら、食べた食器も自分たちで持って行かなきゃいけないわけですし、キッチンに行かなきゃどこに行くって言うんですか?」

「だから、書斎」ヒナはあくまで言い張った。

「まぁ、じゃあヒナは書斎に行ってください。僕は片付けを手伝いますから」ダンは素っ気なく言い、卵を置いて、パンをかじった。

だって、それが僕の仕事だし、ブルーノとスペンサーのどちらかを選ぶとか、そんな話いまここで出来るはずない。

自分自身、なにをどうすればいいのか分からないんだから。

つづく


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ヒナ田舎へ行く 189 [ヒナ田舎へ行く]

ヒナはシモンのパンをひとつだけ食べて朝食を終えた。

紅茶は二口ほど飲んだ。

「ごちそうさまでした」ヒナは席を立って、椅子をテーブルに押し込むと、まだまだ食事の済みそうにないダンに向かって言った。「じゃあ、ヒナは書斎へ行きます」と、使命感を帯びた口調で。

「お好きにどうぞ」ダンは無感情に言い、干からび気味のベーコンを口に運んだ。スペンサーとブルーノの話題は断固拒否というわけだ。

ヒナは吹けもしない口笛を吹きながら、食堂を出た。廊下の途中で、ヒューバートが待ちかまえていて、あっさり髪の毛を束ねられてしまった。それでもヒナは挫けず書斎へ向かった。ブルーノとカイルにはノッティに手紙を渡すときに会ったけど、スペンサーにはまだ会っていない。

なので朝の挨拶がてら、昨日の話を聞くつもりだった。ダンとスペンサーとブルーノ。トライアングルだ。

「おはようございまーす」ヒナはずかずかと書斎にはいると、お客様が座る上等な椅子に、ぽんと飛び乗った。

「おはようヒナ。今朝は朝食をボイコットしたのか?」書斎机に向かってぼんやりとしていたスペンサーは、気だるげに伸びをした。

「ぐずぐずしてたからこうなったの」ヒナはダンの言葉をそのまま使った。

「雨だからな」

「そうなの」ヒナはしゅんとした。雨の日はジャスティンに会えないので、何もかもつまらない。「スペンサーは何してるの?」

「ん?雨だからやる気が出なくてな――ああ、そうだ。ヒナにいいものをやろう」スペンサーは手招きをした。

ヒナもやる気が出なかったが、いいものの正体が気になり素直に従った。まわりこんでスペンサーの横にくっつき、手元を覗き込む。

「これのこと?」ヒナは積み上げられた本をつっついた。

「正解。ヒナの好きな本が届いたんだ。一番上のこれは――『わがままな求婚』、お次は――『誓いの言葉はデンジャラス』。で、これが――」スペンサーは本を上から順に取り上げてタイトルを読み上げた。

本は全部で五冊あった。

読みかけの『不機嫌な侯爵と壁の花』を入れたら、六冊。ダンに言えばもう何冊か出てくるだろう。ぐずぐずしていたら、いつまで経っても読み終わりそうにない冊数となった。

「これ、キャリーのとこで頼んだの?」ヒナは感激も露に訊ねた。

「昨日ちょっと寄ったら、キャリーが色々勧めてくれたんだ。俺はこういうのはわからないから、彼女に選んでもらったよ」スペンサーは照れくさそうに言うと、ヒナに積み上げた本を差し出した。

「ありがと、スペンサー」ヒナは早速、一番上の本をぱらぱらとめくった。幼馴染ものらしい。なかなか面白そうだ。

このあと居間のソファに寝っころがってさっそく読もっと。でもその前に、小説よりももっと面白い話を聞かなきゃ。

つづく


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